「栄養のあるまちⓇ」が持続可能な社会を築く〈3〉

まちに出る管理栄養士たちが実現する住民の栄養・食行動の適正化と習慣化。

藤原政嘉さん(公益法人大阪栄養士会会長)
自分の栄養を知ることから健康を見つける
我々、大阪栄養士会がずっと掲げていたテーマが「自分の栄養を知ろう」というものです。栄養というものはすぐには効果が出ません。ひとつのグループ、ひとつの地域で継続して根付かせなければなりません。それが今回の吹田市での実証実験の目的でもありました。将来の健康のためにということをアピールして、それを継続する気持ちを住民の皆さんに持っていただくことを目指しました。
そのためには、まずIn BodyⓇ(インボディ)という装置で、その人の体組成などを具体的に数値化して栄養状態を評価しました。そして、フードモデルを使った食育SATシステムⓇによって、自分の食事でどんな栄養素が摂れているかを見える化し、必要とする栄養素の多い少ないを評価しました。そしてもうひとつは、カルシウムの摂取量を簡易調査法で行いました。
会場では、若い人、小さいお子さんのいるご家族、高齢者の方、あるいは高齢の独身者など多世代の様々なタイプの方と接しました。高齢者に対してはフレイル(運動機能や認知機能の低下)、高齢女性に多い骨粗しょう症、そして、日本人の課題である高血圧症と塩分の関係という3点をテーマにして指導しました。
初回の相談のあと、幾人かのリピーターができたのは非常に喜ばしいことでした。最初に受けた指導を実践して再評価を受ける、これが大事なことです。食事指導や栄養相談は単発であってはいけません。栄養状態というのは今日食べたものの結果が明日出るということではないので、どれくらい継続できるかが成果につながるのです。
この実証実験で管理栄養士が地域に出て行って、住民の方たちと目線を一緒にし、さまざまな人の栄養のバックグラウンドを考えて継続できる食生活プランを提供できたことも我々にはいい体験でした。会場ではスーパーマーケットが隣接しています。旬の食べ物など食卓の話しをしながら、栄養のことをアドバイスすることもできました。
そういった活動を通して、自分の栄養について、いかに関心を持てたかということが重要だったのです。栄養を知るというのは自分にとって見逃せないものであることを納得してもらえれば、継続への意識が高まり、将来に向けての食生活のあり方をプランできます。
この一連の取り組みは、地域の皆さまの栄養の重要性に対する関心を高めたとともに、管理栄養士という職業への理解を深めていただく機会にもなりました。
「食文化に長けた大阪」を栄養でアピールする
我々は、管理栄養士の知識やスキルの向上を図るために、行政や企業とタイアップしての研修会を行うことがよくあります。しかし、実証実験はそれとは違って、多世代のさまざまなバックグラウンドを持つ住民の方々と直接向き合う実践だったので、我々にも非常に有意義なものとなりました。
大阪は「食のまち」、「食い倒れのまち」と言われます。しかし、食が多様化している地なのに食い倒れては問題です。「食い倒れのまち大阪、でも、食うて倒れたらあかん」ということで、我々はこれまで外食店での栄養価表記を促進するなどで栄養のあり方を知らせることに尽力してきました。
昨今、大阪では栄養を発信する機会が幾つかあります。昨年は食育全国大会がありました。今年は大阪・関西万博です。そして、来年は「全国豊かな海づくり大会」が予定されています。
今回の大阪・関西万博では大阪ヘルスケアパビリオンで北海道から沖縄までの郷土料理を紹介する展示を行う予定です。その料理の内容はWWF(公益財団法人世界自然保護基金)が、「未来の食材」(環境負荷の小ささ、テニしやすい価格、栄養価の高さなどから選定)としている50の食材を郷土食に取り入れたサステイナブルなものとなります。例えば大阪の場合は、サステイナブルな食品を入れた串カツという郷土食。そういうアレンジを施した献立を各県の栄養士会が作ることになっていて、楽しい料理が出来上がってきます。展示の横には管理栄養士がいて、希望者に栄養食事相談をする予定です。開催は、8月3日から9日の1週間。8月4日の「栄養の日」とともに、日本の食文化を栄養の面からアピールします。
管理栄養士の仕事は地域の食文化とともにある
栄養と栄養素は違うということを日本栄養士会の中村会長も話しています。栄養素の話ばかりでは聞く方も身に入りません。美味しく楽しく、いかに継続するかということを伝えなければなりません。美味しく楽しくには地域ごとの食文化、あるいは地産地消が大きな要素になります。そして、日本には四季折々の節句があり、神様や仏様の信仰文化なども日本特有のさまざまな食文化につながっています。我々日本人は非常に恵まれていると言えます。
そのような昔からの食文化という背景を活かしながら美味しく楽しく食べて、栄養的により良い食生活をいかに継続できるか。管理栄養士はその地域の食産物を利用してバランスのいい献立で料理に仕上げるか、というところまで相談に応じなければなりません。節句にはいろいろな料理がありますが、毎日食べていればバランスが悪いし、栄養を摂り過ぎになります。ハレとケの食事というものを伝える必要があると思います。
日本に栄養士会ができて百年、ジャパンニュートリションの大きな成果として、長寿社会になったことは栄養の大きな成果として挙げられます。
ところがいま、健康長寿というなかで栄養不良の二重負荷という問題があることも知って欲しいと思います。“二重”とは何かというと、全く栄養素が足りないグループと摂りすぎのグループが混在しているということ。それを解決するには、繰り返しになりますが、管理栄養士が地域に出て行って、住民の人たちと同じ目線で、その人の栄養に関するバックグラウンドを正しく評価し指導する必要があります。それは机上ではできないことです。栄養士会としては、日本各地に多くの認定栄養ケアステーション®️を置いて、住民の方々にご自身の栄養のことを知っていただくことをひとつの目的にしています。まちには食生活や栄養相談を気軽に受けられる場所が必要です。今後、認定栄養ケアステーション®️をどのように広げていくかが、我々の課題です。
なお、誌面では岸田健志さん(プライムライフテクノロジーズ株式会社技術企画推進部サービス企画開発室)の資料提供による大阪府吹田市での「実証実験」の結果報告も記載されています。
